テクノロジーで変わる回転寿司

2022年現在、回転寿司業界は大手チェーン3社(スシロー、くら寿司、かっぱ寿司)が約7割以上のシェアを占め、熾烈な競争が繰り広げられている。しかも、メインの食材となる魚介類のコストは原価率が高く、外食産業の平均である30%を超える40〜50%に達し、旬のネタでは採算度外視ともいえる80%になることもあるという。

新規出店や持ち帰り需要の増加などで、コロナ禍のダメージから脱しつつある回転寿司業界。だが、その一方で世界的な気候変動による漁獲量の減少、ウクライナ情勢を背景とした燃料費や原材料費の高騰、さらに国内でも漁業関係者の高齢化といった数多くの課題にも直面している。

このような厳しい情勢の中でいち早くAIやIoTなどの最新技術に投資を進めてきたのが、回転寿司チェーン「くら寿司」を国内外に600店舗以上を展開する、くら寿司株式会社だ。

「回転寿司は外食産業の中でもICT(情報通信技術:Information and Communication Technology)によるシステム化が進んでいます。くら寿司では、厨房に寿司ロボットやオートフライヤーを導入するなど、他社に先駆けて業務の効率化に取り組んできました。AI導入はその流れにあります」と語るのは、同社広報・マーケティング本部の黒見繭さん。

例えば、入店してから退店まで非接触で過ごせる新しい店舗システムの導入も、実はコロナ禍以前から省力化のために進めていた取り組みだった。そして、早急に安全・安心な店舗を整えたいという想いから、当初2025年の予定を4年前倒して2021年12月に全店舗に導入を完了したという。

「現在、くら寿司の全店舗で常時皿が巡回するレーンと、スマホやタッチパネルで注文を受けたら出来立ての寿司をスピーディに提供するオーダーレーンが設置されています。これまでに蓄積された店舗ごとの客層や滞在時間、時間帯別などの注文状況はビッグデータ化されていて、最適なネタの種類や量をAIが判断してレーンに提供しています」(黒見さん)

AIでハマチが育つ!「くら寿司」が回転寿司業界にもたらしたテクノロジー革命_1
回転寿司チェーン「くら寿司」を展開するくら寿司株式会社(大阪府堺市)は、コロナ禍からの回復基調を受け、2022年10月第2四半期の連結売上が893億円と2年連続で過去最高を更新している

さらに、皿が巡回するレーン上にもAIが搭載された画像解析用のカメラが設置され、寿司を保護する抗菌カバー上面にあるQRコードを読み取り、商品の売れ行きなどをリアルタイムに解析している。このAIを用いた画像解析と需要予測によって、厨房内の在庫ロスが減るだけでなく、作業の効率化によって入店間もないアルバイトやシニア人材でもすぐにベテランスタッフと同レベルの働きが可能になるという。

また、厨房と客席を分離することで衛生面での向上が図られ、皿の回収も専用のポケットに入れることで厨房内の洗い場まで自動的に送られていく。このようなアフターコロナにおける新しい飲食店のモデルを提示したくら寿司だが、この取り組みは店舗システムの改善のみにとどまらず、寿司の命とも言える魚の仕入れにも及んでいる。

AIでハマチが育つ!「くら寿司」が回転寿司業界にもたらしたテクノロジー革命_2
AIでハマチが育つ!「くら寿司」が回転寿司業界にもたらしたテクノロジー革命_3
くら寿司では自社開発した非接触の新店舗システムを全店舗に導入した。予約から席案内、寿司の注文から会計に至るまで自動化が進められ、食品管理の安全性を高めると同時に従業員の働く環境の向上を目指している。この効率化の鍵となるのがAIやIoTといったテクノロジーの存在だ