2021年末より、東京都の新築一戸建て平均価格は概ね5000万円以上で推移している。2022年5月の平均価格は「5,240万円」。2年前と比較すると、約1000万円も高騰している。
その他のエリアについても、2年間で1割前後、高騰している。
新築戸建ては2年で1000万円高騰! 「ウッドショック」の影響はいつまで続く?
マンションの価格高騰が目立つ昨今だが、実は一戸建て価格の高騰も顕著になっている。その要因の1つとなっているのが「ウッドショック」だ。木材不足は、新築一戸建ての工期にも影響しているという。高騰を続ける最新の一戸建て価格と、ウッドショックの現状を取材した。
戸建て価格と成約件数の推移

出典:東京カンテイ
中古一戸建ても、同じくこの2年間で各エリアともに1割ほど高騰している。近年、しきりに「マンションが高騰している」といわれているが、一戸建てもコロナ禍で決して少なくない幅で価格高騰を見せているのだ。

出典:東京カンテイ
一戸建ての価格高騰の要因には、マンションと同じく、まず「圧倒的な低金利」が挙げられるだろう。とくに昨今では諸外国が金利を引き上げていることから、変動金利で0.3%台、固定金利でも1%強で住宅ローンを借り入れられる日本の著しく低い金利は際立つ。
また、コロナ禍で在宅勤務者が増えたことで、マンションより広く、騒音を気にせず過ごせる一戸建ての需要が上がったものと考えられる。
さらに、もうひとつの大きな要因になっているのが「ウッドショック」だ。首都圏における新築一戸建て・中古一戸建ての成約件数の推移をご覧いただきたい。

出典:東日本不動産流通機構
2020年から2021年にかけて成約件数が急伸している中古一戸建てに対し、新築一戸建ての成約件数は急落していることがわかる。
新築、中古、いずれも価格高騰を見せている中で、新築一戸建てのみが成約件数が急落……この要因こそがウッドショックにあると考えられる。
世界的な木材不足で新築が高騰
「ウッドショック」とは、世界的な木材不足から木材の価格が高騰し、一戸建ての不動産価格高騰や工期遅延が起きている現象だ。下記グラフのように、2021年2月頃を起点にあらゆる木材の価格が高騰している。

出典:経済産業省
ウッドショックの要因は、新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけとした「世界的な住宅需要の向上」や「コンテナの海上輸送運賃の上昇」にある。そもそも日本は木材自給率が約40%と低く、輸入材に依存している。ウッドショック後は、国産材にも高騰が見られる。
コロナ禍で「トイレがない」と話題になったことも記憶に新しいところだ。木材のみならず、世界的に物流や住宅設備の生産が停滞したことも、日本の一戸建ての不動産価格高騰や工期遅延の要因となっている。
工務店同士で建材や設備のマッチングできるネットワーク「365eco」を運営するBEコネクト社長の柗木淳一氏は、今の状況について次のように語る。
「木材のみならず、最近は上海がロックダウンした影響で給湯器なども国内に入ってきません。納期遅延や納期未定の住宅設備だけ、別契約で対応するケースも見られます。木材や設備の高騰分が建設費に転嫁されるのは避けられないでしょう」
柗木氏によれば、2022年初めには、コロナ禍で調達しにくくなっていた設備や建材について、だいぶ納期の見通しが立つようになってきていたという。
しかし、ここにきて改めて、ウッドショックの再燃と深刻化、長期化が懸念される状況になっている。その要因となっているのは、ロシアによるウクライナ侵攻だ。
ロシア・ウクライナ情勢によりウッドショック再燃!
3月には、ロシアが「非友好国」に対してチップ・丸太・単板の輸出を禁止することを決定した。「非友好国」には、日本をはじめアメリカやEU諸国など48の国と地域が含まれる。
ロシアは、世界全体の2割の森林を保有する森林大国であり、欧州など木材をロシアからの供給に頼っている国も少なくない。

出典:林野庁
輸出が禁止された木材について、日本はロシアからの輸入に依存しているとはいえないが、世界の木材不足を助長させるものには変わりない。日本も、間接的に受ける影響は大きいものと考えられる。
■一戸建ての価格は今後どうなる?
今後の一戸建て価格や日本の住宅業界を取り巻く状況について、長崎県で「マツケンホーム」を営む松下建設の松下宗司氏は次のように見る。
「経験上、一度上がった価格はすぐには下がりません。しかし、エリアによっても、工務店やメーカーによっても、木材の調達状況は異なるはずです。九州は木材が豊富で、林業も盛ん。ウッドショックは、国産材回帰の最後のチャンスでもあると思います。国と住宅業界、林業が一丸となって乗り切る必要があるでしょう」
国産材の安定供給推進への動きは、すでに見られている。林野庁は、木材不足と価格高騰への緊急対策として、2021年度、補正予算において木材乾燥施設の整備など国産材の安定供給に向けた措置を講じた。2022年度も、林業や木材加工・流通施設などへの支援措置を行う。
しかし、国産材の安定供給は一朝一夕には成り立たない。

出典:国土交通省
昨今、「高騰基調が落ち着いたら……」と、マイホームの購入時期をうかがっている方も多いのではないだろうか。
しかし、ウッドショック、そして一戸建て以上に大幅な高騰を見せるマンション価格、さらには世界的なインフレ傾向や利上げの状況……これらを踏まえると、決断を先延ばしすることが正解とは限らない。
マイホーム購入では、国内外情勢や市況などのマクロな視点のみならず、ミクロな視点を持つことも重要だ。ウッドショックに関しても、松下氏が言うように、建築を依頼する工務店やハウスメーカーの木材調達状況や価格、納期にも目を向けるべきだろう。
加えて、さらにミクロな視点となる「家族」のライフプランや意向も大切に、マイホーム取得時期を検討してもらいたいと思う。
取材・文/亀梨奈美
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