近年、新卒から定年まで一社に勤め続ける日本型終身雇用制度は見直され、副業や起業、フリーランスなど働き方の選択肢が増えている。こうした雇用環境や社会情勢の変化に伴い増えているのが「キャリア迷子」だ。
2020年にリクルートワークス研究所が社会人を対象に行った調査によれば、「自分の人生やキャリアをどうしたらいいかわからない」と回答した人は8割に及ぶという。
今回お話を聞いたのはオンラインキャリア相談サービス「ミートキャリア」代表の喜多村若菜さん。ミートキャリアに寄せられるキャリアの悩みとは、どのようなものが多いのだろうか。
「大きく分けて2つの悩みに分類できると思います。
まず一つ目は、『ライフイベントを踏まえた中長期のキャリア形成』に関するお悩みですね。特に20代後半から30代前半にかけて、結婚や出産、育児などのライフイベントを迎える方が多い。一方『35歳転職限界説』なども耳にして、キャリア形成とライフプランをどう両立すべきか、焦りや不安を感じている方は少なくありません。
また、女性だけではなく男性からの相談もあります。例えば家庭を持つにあたって一定の収入を確保したいけれど、今転職に踏み切っていいのか……と、女性とは違う文脈でキャリアを考える人が多いようです。
もう一つは、『今の仕事を続けるのか、それとも転職すべきか』というお悩み。例えば今の仕事内容や職場環境などに何かしらモヤモヤや不安を抱えている。でもやりたいことや自分の強みがはっきりとわからず、転職に踏み切れない……というご相談は多いですね」(喜多村さん。以下略)

このままこの会社にいていいのかな? キャリア迷子から脱出する3ステップ
ボーナスが出る会社が多い6月。その金額や評価を見て「このままでいいのかな」とモヤモヤする時期でもある。そんな悩める「キャリア迷子」が、自分らしいキャリアを形成する秘訣を専門家に聞いた。
転職する? それとも副業? 現状維持でよいのだろうか
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「キャリア迷子」の増加は、長引くコロナ禍など社会情勢の変化の影響も多分に受けていると指摘する。
「副業やフリーランス、リモートワークなどの選択肢が増えたこと自体は、さまざまなライフスタイルに適応できるという意味で前向きな変化ですが、個人がより主体性を持ってキャリアや人生を設計することが求められるようになったことも意味しています。
そもそも自分が何をしていきたいのか、自分の市場価値はどれくらいなのか。そういったことを一人ひとりが自律して考えていく必要が出てきたのも、『キャリア迷子』が増えている一因ではないでしょうか」
キャリア迷子を脱するために「理想を描く→現在地を知る→行動する」
では、こうした「キャリア迷子」から脱するにはどうしたらいいのだろうか。喜多村さんは、3つのステップに分解して考えてほしいと語る。
ステップ1 理想を描く
ステップ2 現在地との差分を知る
ステップ3 行動する
「まずは自分の理想とする人生やライフスタイル、キャリアを具体的にイメージしてみてください。このとき『やりたいこと』を探そうとするのではなく、『ありたい姿』を考えるのがポイント。
やり方としては、自分が大切にしている価値観や好きなことなどを、ノートなどに書き出してみるのがオススメです。そうすると、ぼんやりと頭の中にあったイメージの解像度が上がり、『ありたい姿』がハッキリとしてきますよ」
理想のイメージが全く湧かないという方は、まずは情報収集をしてみるのもよいそうだ。
「身近な人に話を聞いたり、SNSや社外のコミュニティなどで自分の理想に近い働き方や生き方をしている人を見つけたりできますよね。
『この人素敵だな』と思う人に出会ったら、どんなところに惹かれたのかを具体的に言語化してみてください。あなたが大切にしている価値観を知るヒントになるはずです」
「ありたい姿」が描けたあとは、「現在地との差分を知る」ステップに移る。
「『現在地』とは、スキルや働き方などの面で今自分がどんな状態にあるのかを指します。働き方の面では、今自分がプライベートの時間を大切にできているか、などのポイントを確認してみます。
またスキルと言われると、『自分に強みがない』と感じてしまう方も多いかもしれません。でも、これまで周囲に褒めてもらえた経験や、他の人よりも苦なくできてしまう仕事はないでしょうか。これらがあなた固有のスキルや強みにつながると思います。一緒に働く人に聞いてみるのも良いですね。
こうやって自分の『現在地』が確認できたら、ステップ1で描いた理想の状態との“距離”を振り返っていきます。どんなスキルを身につける必要があるのか、どんな働き方が実現できれば理想的か、具体的に洗い出してみてください」

近年はオンラインで受けられるキャリアカウンセリングも充実している
「キャリア迷子」脱出に向けた最後のステップは「行動」だ。ここで喜多村さんは「転職」だけが選択肢ではないと語る。
「今は色々な選択肢がありますので、転職以外の選択肢も検討してみた方がいいですね。
例えば現職に留まったまま、副業(複業)から小さくスタートしてみるのもいいでしょう。最初からお金をもらうのがハードル高く感じたり、現職に『副業禁止』などの制限があったりするなら、興味のある会社や領域でプロボノ(※)・ボランティアでやってみるのもオススメ。
そういった『第三の居場所』の中でやりがいや価値を発揮できたと感じたら、副業や転職活動を本格化させてもいいと思います」
※プロボノ:社会的・公共的な目的のために、職業上のスキルや専門知識を活かして取り組むボランティア活動
「キャリア支援のプロ」である喜多村さん自身も、過去にこのステップに従ってキャリア形成をしてきた原体験があるそうだ。
「新卒で大手コンサルティング会社に入社したものの、学生時代から漠然と起業したいという思いが捨てきれなくて。でも、本当にここで会社を辞めて挑戦するべきなのか自信が持てませんでした。
だからまずSNSなどを活用して、興味ある領域で仕事をしている人にアポイントをとったり、知人に紹介してもらったりして、積極的に情報収集をしました。そうしたら、ある方に『まずはボランティアでうちの会社を手伝ってみない?』と声をかけていただいて。副業で参画して、そのままそこに転職。そのあとしばらく準備をして起業に至りました。
一足飛びにキャリアチェンジをしようとするのは難しいので、少しずついろんな人や場所で自分の力や適性を試しながら、居場所を見つけていけばいいと思います」
ゴールは「転職」ではなく「納得感をもちながら働くこと」
喜多村さんが代表を務めるミートキャリアを「第三の居場所」として活用し、キャリアチェンジに成功した人もいるという。
「ユーザーのまちあやさんは、育休から復帰したけれど、限られた時間の中で自分の価値が発揮できていないのではと悩んでいて。自分の希望とは異なる業務に割り振られたり、昇給・昇格の機会を与えられなかったりする、いわゆる『マミートラック』に陥っていました。
そのタイミングでミートキャリアのコミュニティ運営に参画いただいたのですが、そこで自分のスキルや強み、やりたいことが明確になったと言います。
例えば『誰かこういうことしない?』と声かけがあったら真っ先に手を挙げるとか、周りの人がパフォーマンスを発揮できるようマネジメントするとか、そういった瞬間にすごくワクワクしたんだそうです。
当時人事として働いていたまちあやさんは、カスタマーサクセスとして転職に成功されました。まさに社外のコミュニティ活動を通して、自分が活きるポジションや職種を見つけられた良い事例です」
最後に「『キャリア迷子』脱出のゴールは転職ではありません」と喜多村さん。
「ミートキャリアのユーザーも、直近の転職活動について相談に来る方は全体の3割ほど。それよりも、中長期のキャリア形成に悩んで相談に来る方が多いんです。
現職に留まるか、転職かの二択になってしまうと苦しいですよね。でも、実はたくさん選択肢や可能性がある。それを知る手段として、副業やコミュニティに参加してみるのもいいし、私たちのようなサービスを利用して第三者と話す機会を作るのもいいと思います。
そうやって視野が広がれば、案外ご自身が一番力を発揮できる場所が今の職場だと気づくかもしれない。一番大切なのは、『やりたい仕事ができている』という納得感を持って働くことではないでしょうか」
「人生100年時代」と言われ、働く時間は人生の大部分を占めるようになった。今こそ、納得感を持って働くことが人生を充実させることにつながるのかもしれない。
取材・文/安心院 彩
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