学校で採れた野菜を販売したら大成功!「みんなの育てた野菜がムダにならなかった」“取締役”を説得し、中学生が株式会社を始めてみたら…
経営学者の岩尾俊兵さんが上梓した『13歳からの経営の教科書「ビジネス」と「生き抜く力」を学べる青春物語』は、主人公やそのクラスメイトの成長を通して、経営マインドやスキルについて学べる一冊だ。その一部を抜粋、再構成してお届けする。
『13歳からの経営の教科書』#3
学校で採れた野菜を販売したら大成功!
図書館で見つけた不思議な『教科書』に導かれ、ヒロトは「経営」に興味を持つようになる。
ある日、学校で収穫した野菜を各自持ち帰るように先生に言われるが、積極的に持ち帰ろうとしないクラスメイトたち。みかねた主人公のヒロトと、頼れる学級委員であり、実家が青果店を営むリンが、リンのお店で野菜を売ることを発案する。
販売価格を決める際のヒントは、『教科書』の「需要と供給」の箇所にあった。ビジネスでは価格が大事で、価格の決め方は三通りあると。
〈もっとも簡単なのは、製品・サービスの材料費に自分が欲しい利益を乗っける方法だ。次に考えないといけないのはお客さんが「いくらまでなら支払ってもいい」と考えているかだ。大多数のお客さんが考えている値段よりも高い値段をつけてしまうと、どんなにいい製品、サービスでも売れなくなる。最後に、ライバルがいくらで打っているのかも参考にする必要がある。〉
そしてリンのお母さんの許可を得て販売したところ、結果はなんと、完売!その結果に驚く二人だった。

リン、一緒にビジネスをやらない?
「あっという間だったね」
「......これ、全部でいくらあるのかな?」
リンがヒロトのほうを見た。
「てかさっ、これだけあれば、中古のカメラくらいなら買えちゃうかもっ!」
「......だめ、これはみんなのお金だから」
「いやあ、そりゃ、もちろんわかってるけどさ」
そう言い訳して、ヒロトがさらにつぶやいた。
「これも『教科書』のおかげだ」
「......教科書って?」
「えっとね、実は、お店やろうってのも、この『教科書』を読んでたから、できるかもって」
ヒロトは『みんなの経営の教科書』を取りだした。リンがその『教科書』をのぞきこんでいる。ヒロトが、ねえっ、とリンに呼び掛けた。
「ビジネス、悪くないもんでしょ?」
そうはいってみたが、ヒロトだって、『教科書』と出会わなければ、自分でビジネスをやってみるなんて思いもしなかった。リンに偉そうなことはいえない。
「......うん、野菜がちゃんと買ってもらえて、お客さんにありがとうって言ってもらえて」
「ね? これはサギとかズルじゃないんだよ。自販機のときだって、みんな、冷たい飲み物が安く買えるからって喜んでもらえたんだ」
ヒロトが笑った。
「もちろん、それでお小遣いだって増えたら、もっとうれしいけどね、はは」

みると、リンがすこしだけ頰を赤らめている。
「......ヒロト、昨日はごめんね」
「いやあ、そんな」
二人とも笑顔だ。ヒロトは、そうだ、今なら、と思った。『教科書』を読んでいて考えたことをリンに伝えてみたら......。
そう、リンとならもっと面白いことができるかもしれない。ぼくの力なんてたかが知れているけれど、リンと一緒なら、きっと。レジをさばくリンを見て、ヒロトはそう感じたのだ。
「てかさ、ちょっとぼくに考えがあるんだけど、リン、ぼくといっしょに『株式会社』を作らない?」
私たち、株式会社はじめます
「......株式会社って、あの、株式会社?」
「そっ、株式会社っていう仕組みをマネしたら、もっともっといろんなことができるみたいだしさ」
ヒロトは『教科書』の「会社」のページをひらいてみせた。
〈株式会社は、お金や物を出す投資家・出資者と、そのお金や物をつかってビジネスをする事業家を出会わせる仕組みだ。
世の中にはビジネスに関わりたいけど経営するのはめんどくさいという人もたくさんいる。そんな人たちにお金や物を出してもらう(出資という)。株式会社ではお金や物を出した人のことを株主という。株主という形で会社の一員になってもらうのだ。〉
「リンには、ぼくといっしょに取締役になってもらいたいなあって。ほら、ここ」
ヒロトは「会社」という章の最後の行を指差した。
〈ちなみに運営をおこなう人、集めたお金や物をつかって事業をおこなう人を、取締役という。取締役は事業を成功させるように努力し、儲けがでたら株主と儲けを分ける。〉
ヒロトは、株式会社ならもっとたくさんのものを取りそろえて売ったり買ったりできるようになると、リンに説明した。野菜だけじゃなく、もっといろんなものを集めて売ってみないか、と。
「ねえ、放課後なんでも市とかって名前でさっ、リンはどう思う?」
リンは考えてみた。たしかに、ビジネスのおかげでみんなの育てた野菜がムダにならなかったし、それに、ヒロトとも仲直りできた。だったら、株式会社を作ったら、もっともっと面白いことができるのではないだろうか。そう思えてくる。
「......うん、株式会社ね。......いいかも」
ヒロトの説得が効いたのだろうか。いや、今日の達成感が影響しているかもしれない。
理由はどうあれ、リンが取締役になってくれることになった。

「とりあえず、このお金はクラスみんなのものだから、明日このお金について報告しな きゃね。で、そのときに株式会社についてみんなに話してみようよっ」
ヒロトが、さらに付け加えた。
「リン、このお金はリンに明日まで預かってもらうのが一番安心だと思うんだけど、ダメかなっ?」
「......べつに、いいけど」
「ありがと。じゃあ、リン、これね」
「......ちょっと、待ってて。......ねえ、お母さーん、封筒ある?」
リンは、母親から封筒をもらうと、そこにきれいにそろえたお札をつめていった。硬貨も、1枚ずつ数えながら、封筒に入れていった。
「......ねえ、この『教科書』、1日だけ貸してくれない?」
「ええ? もちろんいいよっ」
気がつくともう、夕日が二人を照らしていた。
『13歳からの経営の教科書 「ビジネス」と「生き抜く力」を学べる青春物語』
(KADOKAWA)
岩尾俊兵

2023年6月29日
1,760円
296ページ
978-4041125687
500mlのペットボトルの水が100円なのに、なぜ2Lの水も100円?
物語(小説)を楽しく読むだけで、自然と学べる「ビジネス」と「生き抜く力」!
(あらすじ)
中学校の図書室に忘れ置かれた不思議な『みんなの経営の教科書』と出会い、
ヒロトは仲間と共に社会の課題に向き合う――。
“人は誰でも自分の人生を経営している。だから、すべての人にとって経営は必要不可欠”
という強い思いから、中学生から社会人までが楽しめる物語形式で書き下ろされた、
これからの時代に必要なビジネス素養が身に付く本。
※本書は前から物語、後ろから“教科書”を読むことができます
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