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日本全国から集う「2代目特有の悩み」を
抱えた経営者たち

Zoomの分割画面に数十人の顔が並ぶ。40代、50代の男性が中心だが、若い男性や女性も混ざっている。居住地はバラバラだ。一見すると、ごく普通のオンラインセミナーに見えるが、実はこの画面に映る参加者の全員が、実家の家業を継いだ「2代目社長」なのだ。

一般社団法人2代目お坊ちゃん社長の会(以下、お坊ちゃん社長の会)は、主に日本全国の2代目社長が集うコミュニティである。毎月の定例会などを通じて自社の新たな経営ビジョンを練り上げ、初代社長が打ち立てた経営理念を自分なりの言葉で再解釈する「2代目ビジョン経営」の実践を目的としている。設立は2020年、定例会の開催は すでに30回以上を数えている。

「多くの場合、初代社長はカリスマ経営で、経営理念の意味も自分だけで理解していることが多い。自分の親が作った経営理念を読み解くのは、実はとても困難なことなんです」(田澤氏。以下略)

と話すのは、お坊ちゃん社長の会代表理事の田澤孝雄氏。自身も父の事業を継いだ2代目社長だ。お坊ちゃん社長の会が提案する2代目ビジョン経営は、昨今普及した「パーパス経営」の一種といえ、そこほど珍しいものではない。しかし、2代目社長のビジョン経営には、独特の難しさがあるという。

2代目はつらいよ! 全国から2代目社長が集う「お坊ちゃん社長の会」から知る後継者のビジョン経営とは_1
お坊ちゃん社長の会 代表理事の田澤孝雄氏
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「2代目社長が事業を継ぐときは、初代社長が何を考えているのか、何に苦労してきたのか、この会社の価値は何かと自分に問いただし、自分なりに解釈しなければいけないのですが、これがとても難しい。そもそも自分の親の内面に踏み込みたい人は、あまり多くないのではないでしょう。特に2代目社長には『経営者である父親が絶対的な存在だった』という家庭で育った人も多いから尚更です。

だから本当は、経営理念やビジョンになんか向き合いたくないんですよ。しかしそうすると、周囲からは『2代目は自分の考えがない』『2代目は弱っちい』と後ろ指をさされてしまう。2代目社長は、そういうジレンマを抱えやすいんです」

親の代から存続しているのだから、自社に何らかの価値があるのは間違いない。しかしその価値を理解するためには、実の親の心の奥底に迫らなければいけない。一般的な親子関係でも、それはなかなか難しいことだろう。

だからこそ田澤氏は、お坊ちゃん社長の会の活動に意義があると話す。全国から似た境遇の仲間が集い、それぞれの親子関係や経営の悩みを共有しながら、継承すべき価値や自分なりのビジョンを見出していく。

「私たちの気持ちがわからない経営コンサルタントに何かを指図されても、嫌な気持ちになるだけですから。みんな『2代目』という同じ立場だからこそ、意地を張らずに、親の心や自分のコンプレックスに向き合えるのだと思います」