まずは、黒服ムラカミさん(34)がTikTokに上げた人気動画のひとつからメソッドを紹介しよう。
タイトルは「席から出てくるのが遅い新人キャバ嬢に対応する黒服」。
ヘルプについている新人キャバ嬢を他の客席に移動させようしたが、彼女がなかなか今いる客席から抜けてこない。どうやらその場で指名される「場内指名」を取るために粘っていたようだ……というシチュエーションに対して、黒服がそのキャバ嬢にどう対応すべきか。動画はムラカミさんがカメラ(キャバ嬢と想定)に向かってひとり語りしている。
「どうしたの、なかなか席から出てこなかったけれど。あー場内指名を取ろうと頑張ったんだ。偉いね。でもダメだったんだ。うん、でも、場内指名なんか全然取れなくていいよ。うん、全然いい。まずはそれよりも先に、連絡先交換してほしいんだよね。ちなみにいまお客様と何件交換してる? あー10件かあ、少ないね。じゃあまず100件連絡先交換するところから、しっかり意識して頑張っていこう。場内指名は接客が慣れてくると、けっこうその場の雰囲気で取れたりするもんだから。うん、全然大丈夫だよ、焦らなくていい。他の先輩でも見てたらけっこうそう(場内指名を取りたいと)思っちゃうよね。でも大丈夫。次の席行って、連絡先交換からしっかりしていこうか。おいで」
実際の動画をご覧になりたい方はこちらからどうぞ(音が出ます)。
「キャバクラあるある」はTikTokでは人気ネタだが、ムラカミさんの動画は他と違う大きな特徴がある。
まず、怒ったり責めたりしないこと。他の人の「キャバクラあるある」ネタだと先輩黒服が後輩を叱責したり、売れっ子キャバ嬢が厳しく指導したりする構成が多い。それはそれで人気なのだが、やはり人が怒られているシーンは見ていて辛いものがある。ムラカミさんの動画にはそれが一切無いので、安心して見ていられる。
たとえばこの動画でも、ムラカミさんは終始ニコニコ顔で、指示に従うのに遅れても怒ったりしない。それどころか「指名取れなくて全然いい」「大丈夫」「焦らなくていい」と何度も励ましている。
特徴の二つ目は、ただキャバ嬢を慰めるだけでなく、ちゃんと営業利益につながる方向に「誘導」していることだ。この動画では「場内指名」ではなく、「連絡先の交換」という新人でも頑張れば手が届く目標設定を提案している。
ただ甘い顔を見せるのでなく、しっかりビジネス上のフォローもしているのだ。このあたりがムラカミさんの動画が、一般の仕事の参考になるのではないかと考えるゆえんである。
また、「キャバクラあるある」動画で、ムラカミさんのようにキャバ嬢が実際に出てこないのは非常に珍しい。

キャバ嬢5万人をフォロワーに持つ黒服の人の心をつかむスーパー仕事術
新年度のスタートから1か月近く過ぎて、若い社員の指導に頭を悩ませている管理職も多いだろう。そんな読者にお勧めしたいのが、「黒服ムラカミ」さんのTikTok動画だ。仕事はキャバクラのいわゆる「黒服」だが、動画内で展開されるキャバ嬢らへの指導は他のビジネスでも参考になりそう。そんなムラカミメソッドを紹介する。
明日から使えるテクニック3つ
怒らない、バカにしない
それでいて彼のフォロワー数は6万7000人もいて、しかもその8割がキャバ嬢かその予備軍のような女性だという。
「TikTokはコロナ禍で落ち込んだ客足を集める店の宣伝として始めました。でも今のような動画を出すと人気が出てきて、現在は人材募集に活かすような内容にしています。そのおかげで入店志願者が増えて、毎月50人くらいはキャバ嬢候補と面接していますよ」
なかには自分の母親も昔キャバ嬢だったという子もいる。その子は母親にムラカミさんのTikTok動画を見せて、「うん、ムラカミさんのお店なら間違いないわ」と背中を押されて面接に来た。
「名誉だし、本当に嬉しいですね」
照れ笑いしながら、ムラカミさんは相好を崩した。

ムラカミさん。現在、千葉市にある「Club Runway」の店長を勤める。同店が所属するグループはコロナ禍にかかわらず、昨年12月に過去最高の売り上げに達したという。
TikTokはhttps://www.tiktok.com/@mura.ne.jp1129
ここで黒服の仕事について簡単に説明しよう。我々から見えている黒服の仕事は、飲み物の注文を取ったり、灰皿の交換をしたりするテーブル仕事だ。だが見えていない部分で重要な役目がある。それはキャバ嬢の勤務と売り上げの管理である。
「要するにキャバ嬢の『マネージャー』です。ちゃんと出勤してくるか気をつけて、来たらテンション上げるようなことをいってテーブルに送り出す。売り上げが落ちてきた子の相談にものる。私の店なら肩書きがついている黒服で2、3人の女の子の担当をします。私は店長なので10人プラスアルファぐらいです」
部下と友だちにならない
では新人さんと接するときに、ムラカミさんがまず心がけていることはなんだろうか。ソフトな動画の印象とは真逆のシビアな答えが返ってきた。
「仲良くしようとは思わないってことですね。別にわざと嫌われる必要もないですが」
その理由は何か。
「お店に友だちを作りに来ているわけではないですから。女の子はガッツリ稼ぎたい目的があり、男の子は客商売を学んで将来は独立したいとか夢がある。そして私には店を連日満員にして売り上げを作る責任があります。仕事場という意識をもってもらうことが大切なんです」
担当しているキャバ嬢から、たとえば「好きな人ができた」というようなプライベートな話題を持ちかけられることもある。話には一応乗るが、最後には一線を引く。
「『え、どんな人?』とか会話はしますけれど、恋愛相談のようなプライベートな領域には踏み込みません。そして会話の最後は必ず仕事の話で締めます。仕事場だけの人間関係ですから」
非常に厳しいように感じるが、これも「酒と色」を売る仕事だからこそ、逆に必要な規律なのかも知れない。

「Club Runway」の店内
新人のタイプ別に仕事を振り分ける
では黒服志願の若い男性の場合はどう対応するか。ムラカミさんは「人の仕事の仕方は2種類あると思っています」という。
「ひとつは周りとコミュニケーションを上手に取りながら、賑やかに仕事をしていくタイプ。もうひとつはコミュニケーションを取るのは苦手だけれど、目の前の仕事を淡々と黙々とこなしていく職人タイプ。どっちが良い悪いでは無くて、職人にコミュニケーションを求めても無理なので、指導のアプローチも仕事の振り方も変えます」
どう指導を分けるのか。
「職人タイプには、『灰皿は、吸い殻1本あるだけでも交換する』とか、やるべき仕事の項目のみを教えます。コミュニケーションタイプには、『なぜそうするのか』と理由まで言う。これ、逆にすると両タイプともうまくいきません」
営業中の店内でも、任せるテーブルが違う。たとえば職人タイプには、人気キャバ嬢のテーブルが良いという。
「売れてる女の子って、客席で『○○ちゃんワールド』みたいな自分の世界を作るのがうまいんですよ。お客さんもその世界にひたりたくて来ている。そういうところに話し好きな黒服が来てお客さんとやりとりをすると、女の子がせっかく作った自分の世界を邪魔されているようで、嫌がるんですよ。そういうテーブルにはテキパキと、黙々と仕事をする職人タイプがいい」
「逆にコミュニケーション好きな黒服には、大学生のアルバイトキャバ嬢みたいな、サークルのりのテーブルがいいです。一緒に盛り上げてくれて助けてくれるから」
こういう差配だけで、「売り上げが2、3割は違ってくる」という。

ムラカミさん目当てに来店するお客さんもいる
叱るときは並んで座る
仕事は褒めているだけではもちろん成立しない。遅刻が多いとか、仕事に前向きでないとか、ときにはお説教も必要だ。だが普通には叱らない。そこにもムラカミメソッドがある。
「相手とは絶対、正面で向き合って座りません。必ず横並びか、90度の角度で座ります。向き合って座ると『怒られてる感』が出ちゃって、それだけで辞めてしまう人がいるんです。だから横並びに座って、たとえば遅刻が多いタイムカードを前にして『二人でこの問題を解決しようか』みたいな雰囲気を演出します」
本当に細かいところまで気を遣うのである。私が思わず
「も今どきの若い人を宇宙人としか思えない私からすれば、ムラカミさんの人心掌握術はすごいです」
と感嘆すると、ムラカミさんは「あっはっは」と手を叩いて笑った。
「その『宇宙人』というのは、私が13年前にこの業界に入ったばかりのころ、先輩の黒服から言われた言葉ですよ。『相手(キャバ嬢)を宇宙人と思え。絶対にわかり合えると思うな』って。だから今も私もわかっているとは思っていません」
達人にしてこの境地。なんとなく安心するではないか。
(写真撮影/神田憲行)
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