思った以上に出ていくお金

2017年には3600億円だったスタートアップへの投資額が、2021年には2.3倍の8200億円となり、市場が拡大。さらに、2022年11月には「スタートアップ育成5か年計画」が策定されるといった追い風もあり、若者の起業やスタートアップへの転職は珍しくなくなっている。サラリーマンとして長年キャリアを築いてきた40~50代にも、早期退職制度などを活用したうえで、セカンドキャリアとして「起業」を選択する流れも広がりつつある。

岸田政権は「スタートアップ」投資額10倍計画策定も…公認会計士が教える「脱サラ起業」の落とし穴と、その回避法_1
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40~50代にとっても、本来の退職金に4000万円ほど上乗せして早期退職をうながす大企業が出てくるなど、セカンドキャリアに挑戦しようとする人にとって、環境が整いつつある。
だが、起業した人々の中には「こんなはずじゃなかった……」と後悔し、会社員に戻る人が一定数いるのも事実だ。
そこで、起業に関するよくある「落とし穴」と、それを回避するための方法を、自身も起業し、自治体の創業支援施設でアドバイザーも務める公認会計士、加藤雄次郎氏が以下に解説する。

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起業した場合、店舗・オフィスの賃料はもちろんですが、交通費や印刷代、健康診断の費用など、これまで会社の経費や福利厚生として何気なく利用していたモノ、サービスに関するコストも自己負担となります。そのため、当初想定していた以上にコストが積み重なり、会社員時代に比べ「収入のわりに手元に残る額が少ない」といった事態に陥りがちです。

会社員時代の待遇や起業内容等、個々人の状況にもよるので、一概には言えませんが、会社負担費用の中で、起業後は自己負担となるものとしては主に次の表のようなものがあります。

岸田政権は「スタートアップ」投資額10倍計画策定も…公認会計士が教える「脱サラ起業」の落とし穴と、その回避法_2
(筆者作成)

資金計画を作成する際には、こうした思わぬコストの落とし穴にはまらないように、会社員時代との違いを意識しながら、少し積みすぎなくらいでコストを見積もることが大切です。

また、社会的信頼の高い大手企業から飛び出したことで、思わぬ形で生活設計が狂ってしまうケースもあります。
大手企業からスタートアップに飛び込んだ30代女性は「賃貸住宅の契約名義を、もとの会社から転職先の会社にしようとしたら、審査に落ちた」と語っていました。口座開設やローンの契約など、「審査」が必要となる場面では、収入以外にも、勤務先や職業が大きな判定要素となります。
社会的信頼の低下に伴う不利益が生じる可能性があることを念頭に置いた上で、様々な選択肢をとれるようにしておくことが大切です。

「家の賃貸の審査に落ちた場合は、引っ越せるように、あらかじめ転居先の目星をつけておこう」「審査に落ちるかもしれないので、早めに法人の登記簿謄本や印鑑証明書などの書類を準備しよう」などと、柔軟かつ迅速に対応することを心がけましょう。