〈後編〉

「自分の感情は全部押し殺していた」

佐野靖彦さん(63)の生い立ちは壮絶だ。

岡山県で一人息子として育ったが、実は双子の兄と3歳下の弟がいる。生活が苦しくて両親が子を育てることができなくなり、兄は父方の祖母と伯母に引き取られ、弟は生後半年で国際養子縁組されてアメリカに渡った。

佐野さんが物心ついたときにはキャバレー勤めの母親と二人暮らしだった。間借りしていた6畳間は悪臭を放つヘドロの川に面しており、夜遅く帰宅する母を大家さんの家で待つのが日課だった。