今回、取材を快諾いただいたのは、さくらももこのエッセイにもたびたび名前が登場している、新福正武(しんぷく・まさたけ)さん。2003年に集英社を定年退職するまで、文芸の編集として尽力していた。
――さくら先生の担当編集になられたのはいつでしたか?
もう随分前のことなのではっきりとは覚えていないんです。でも、さくら先生の幼少期について綴ったエッセイ3部作『あのころ』『まる子だった』『ももこの話』あたりだったんじゃないかなと思います。
さくら先生の最初のエッセイ3部作『もものかんづめ』『さるのこしかけ』『たいのおかしら』は僕の先輩にあたる方が担当されていました。その先輩が僕をさくら先生の担当編集に推薦してくれたんですよ。「お前、(さくら先生の担当を)やったほうがいい」と言われました(笑)。
――その先輩編集の方は、新福さんがさくら先生の担当に向いていると思われたのでしょうか?
いやぁ…どうですかね(笑)。そういう意味合いもあったのかもしれませんが、当時の僕にはとにかく「お前がやったほうがいい」という感じでした。担当になったのが1995〜1996年ごろで、1999年7月に『さくら日和』を刊行するまで担当させていただきました。
――さくら先生の担当に任命されたときは率直にどんな気持ちでしたか?
「しょうがないなぁ」という感じでした(笑)。僕はそれまで村上龍さんとか純文学系の作品を作っていたので、さくら先生のエッセイも漫画も、まるで読んでいなかったんです。それで担当編集になるということで拝読したら、やっぱり文章がすごくうまい。
――どのようなところに魅力を感じましたか?
さくら先生は人間としてのまっとうな視点を持っている方なんですよね。子供の目とはまたちがう素直さがあって、偏見みたいなものに誤魔化されないで自分なりのものを見る目を持っている人だなと思います。そこにユーモアやテンポのよさが加わって、さくらさんだけの文章が出来上がっているんです。漫画家さんがついでに書いた文章ではないなと思えて、そこがすごくよかったです。