漫画家・高橋留美子の連載デビュー作『うる星やつら』。1981年から約5年間にわたり放送された同作の初代アニメシリーズは、昭和後期のマンガ・アニメ文化に多大なる影響を与えた作品の1つだ。そんな『うる星やつら』が令和の今、再びアニメ化されるに至ったのはなぜなのか。

放送中のTVアニメ『うる星やつら』のアニメ化立ち上げに携わった尾崎紀子氏と『うる星やつら』アニメ化時点での担当編集者・森脇健人氏(小学館)、現在の担当編集者・岡本吏莉氏(小学館)に制作の裏側を聞いた。

高橋留美子が「大胆に変えてもいいよ」と後押し。令和版『うる星やつら』のこだわり_01
©高橋留美子・小学館/アニメ「うる星やつら」製作委員会
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ラムちゃんは知っているけど
『うる星やつら』は知らない人におもしろさを

――『うる星やつら』の完全新作アニメ化が決まった経緯を教えてください。

尾崎紀子(以下、尾崎) 小学館100周年という節目のタイミングが重なったことで実現しました。2019年の春先に「『うる星やつら』をアニメ化するチャンスがあるけど、どうしますか?」と、フジテレビのアニメ制作部に話がありました。

――アニメ化が決まった当時の担当編集者・森脇さんは、それを聞いてどう思いましたか? 

森脇健人(以下、森脇) ラムちゃんを知っている人は、世代を問わずたくさんいます。一方で『うる星やつら』という、作品そのもののおもしろさを知らない人が多いことにモヤモヤを感じていたんです。だから「こんなおもしろい作品を、再度アニメ化でできるなんて!」と嬉しかったです。

――高橋先生は、どう反応されてらっしゃいましたか? 

森脇 すごく大騒ぎするわけでもなく、静かに喜んでいたように見えましたね。これまでに数々の作品が映像化されてきた方だからか、ホームランを打っても三振でも平常心を保っているイチローのようだなと。一流の方は違うなと思いました(笑)。

岡本吏莉(以下、岡本) 私はアニメの制作が進んでいる途中で先生の担当編集を森脇から受け継いだのですが、高橋先生はスタッフ・キャスト陣が決まっていくたびに「素晴らしい!」と喜んでました。「キャストさんも言うことないし、主題歌もテンポがよくていい。最高です」と。

高橋留美子が「大胆に変えてもいいよ」と後押し。令和版『うる星やつら』のこだわり_02
©高橋留美子・小学館/アニメ「うる星やつら」製作委員会

「大胆に変えていい」
高橋留美子の一言に込められた思い

――昭和の作品を今の時代に合わせて表現する必要もあったかと思います。その上で意識したことはありますか?

森脇 高橋先生は「アニメ化するなら若い子たちに見てほしい」と強く思っていたようで「今の人たちにおもしろいと思ってもらえるなら、大胆に変えてもいいよ」とおっしゃっていました。いい意味で原作準拠の昭和テイストなものにしてもいいし、今の放送倫理に則っていないシーンはどんどん変えてもいいと。

尾崎 そうおっしゃっていただいたのは、本当にありがたかったです。シナリオ化する上で、今の視聴者が笑えないような表現は工夫すべきだと考えました。初代の放送終了から約35年経って、昔はギャグとして扱えていたことが、今の社会常識に即していなかったり、海外の視聴者が冷ややかに感じてしまう可能性もあると思ったからです。

とはいえ、行動原理を変えてキャラクターの個性が失われるのはもったいない。だから、着地点は変えずに経緯を変えたり、流れで見たら気づかれないくらいに細かい変更を加えながら、どんな人が見ても楽しめるような形にすることを全話通じて意識しています。

森脇 キャラクター1人とっても、すごく気を遣っていただいてますよね。特にラムちゃんに関しては、高橋先生が連載当初から保ち続けていた“かわいくて上品”なラインを汲み取った上で、キュートでポップな今っぽさを加えて仕上げていただけたと喜んでおられました。

高橋留美子が「大胆に変えてもいいよ」と後押し。令和版『うる星やつら』のこだわり_03
©高橋留美子・小学館/アニメ「うる星やつら」製作委員会