ユーミンは物語を伝えるストーリーテラー
――武部さんは音楽監督として、ユーミンの曲の世界観をどうとらえてきましたか?
武部 例えば『ひこうき雲』という曲は“死”を扱った曲じゃないですか。そういうものって、日本のポップスのなかでは今まであまりなかったものだし、ユーミンの書く詞にはいろいろな角度のテーマがありますよね。
あるときは“生と死”、あるときは“恋愛”、またあるときはもっと大きな“人類愛”みたいなものにフォーカスを合わせたりする。異国の地に連れていってくれるときもありますね。
おそらく彼女はさまざまなこと――旅をしたこと、絵画を見たこと、映画を見たこと――などにインスパイアされて、それを自分の言葉として紡いできたから、たくさんのタイプの歌があるんです。曲のバリエーションの多さでは、たぶん日本一でしょう。
ユーミンのやってることは、ストーリーテラーとして物語を伝えるということなんだと思います。その点は荒井由実だったころと大きく違っていて、荒井由実時代は自分の目に見える景色やティーンエイジャーの壊れそうな心を紡いでいましたよね。
だけど松任谷由実になってからは、俯瞰で物事を見るというか、自分の経験だけでなく架空の世界を詞に綴るようになった。何だろう、映画監督のような目を持ってるのかもしれませんね。
ワンコーラス目はこのカメラのアングルから、ツーコーラス目は違うカメラのアングルからというように、ひとつのストーリーを立体的に歌詞にすることができる方じゃないかなと思います。
――じゃあ武部さんは、そのストーリーをライブでどう表現するかをずっと考えてこられた。
武部 そうです。だからそのストーリーがよりグッとくるように、ライブではディスクより派手にする部分もあるし、具体的にいえば決めを増やして、ライティングとの相乗効果でアタックを付ける部分もあるし、いろいろな手法がありますよね。
ライブにおいては、ストーリーをよりわかりやすく、スケールをより大きくして届けるということに主眼を置いてきました。