「家飲み」「テレワーク」で自宅熱中症に
熱中症で救急車の要請があった場所について、東京消防庁による2019年6月~9月の集計では、「住宅等居住場所が40.2%で最も多く、次いで道路・交通施設が30.5%」とされている。まず、自宅熱中症を体験した2つの例を見ていこう。
●36歳・男性・会社員
「日中は営業で屋外を歩き回り、翌日は休みだったので夏バテ予防にと、ジムでランニングと筋トレをした日の夜でした。エアコンをつけた自宅で、プロ野球を見ながらだらだらと、缶ビールを4本以上、飲んでいました。ビールなら水分補給にもなると思ったんです。
夜が更けてきたころ、どうも悪寒がするのでエアコンを切ると、ガンガンと頭痛がし、めまいで立てず、ふくらはぎが硬直したように…。驚いた妻が救急車を呼んで搬送され、熱中症と診断されました。数時間、点滴をして回復しましたが、まさか家飲みでこんなことになるとは」
福田医師 昼間の外回りとその後の運動で体力が消耗しているところに、多量飲酒で脱水症状となり、エアコンを切ったこともあって熱中症に至ったと思われます。休日の前夜などは冷たいビールを飲みたくなるでしょう。ただし、お酒は水分補給にはまったくなりません。
ヒトの体では、「1日におよそ2.5リットルの水分の出入り」があります。吸収のほうは「食事で1リットル、飲み水で1.2リットル、体内でつくられる水が0.3リットル」で、排出されるのは「呼吸や汗で0.9リットル、尿や便で1.6リットル」です。環境省の熱中症予防情報サイトでは、「1日あたり1.2リットルを目安とした水分補給」を推奨しています。
しかし、お酒を飲むほどに利尿作用で尿の量が増え、さらにアルコール分解のためにも水分を消費します。ビールを1リットル飲むと、1~1.2リットルの水分が失われ、このとき、体内では水分が不足する「脱水」が進んでいます。
「家飲み熱中症」は意外に多く、ひとり暮らしの人はとくに注意が必要です。予防には、「エアコンを切って飲みすぎない。常に酒と同じ量の水を飲む」ことが重要になります。
●57歳・女性・会社役員
「自宅でのテレワークに慣れてきた夏のある日、パソコン作業中に急に頭がくらくらし、部屋全体が白く濁って見えました。仕事に集中し過ぎてなぜか、エアコンをつけ忘れていたのです。外の空気を吸おうと屋外に出たところ、急に吐き気と立ちくらみ、さらにおでこに赤い湿疹が大量にできていてびっくり。
皮膚科に飛び込むと、『熱中症の軽症。屋外へ出たのが間違いで、すぐにエアコンをつけて体を冷やすべきだった。湿疹は皮膚の表面温度の上昇によるあせも湿疹で、大人でもよくある』とのことでした」
福田医師 高齢者だけではなく、ここ数年、自宅でのテレワークでエアコンをつけずに過ごし、軽症や中等症の熱中症になる人は急増しています。中には「気温がそう高くないので、扇風機だけで過ごしていたからかも」という人もいます。就寝中に同様のことが起こる可能性もあるわけです。実際に、湿度が高いときは救急搬送率が高いという報告があります。終日、エアコンで気温と湿度を調節しましょう。
自宅でも、頭痛、めまい、立ちくらみ、顔のほてり、一時的に意識が遠のく、けん怠感、こむら返り、ひどい肩こり、吐き気、おう吐、腹痛、大量の発汗などがあれば、熱中症を疑ってください。