さらに、麻里男は言う。

「なれれば十分聞きとれるよ。今じゃ(3倍速でも)遅く感じるぐらいさ」
「番組は標準(速度)でみた事ないよ」
「たまに生放送をみるとスローモーションみたいで気味悪い!」

27年前の「こち亀」が予見していた「倍速視聴」の先にある現実_3
ジャンプコミックス46巻収録・よく学びよく遊べ!の巻より ©秋本治・アトリエびーだま/集英社

ここは当然ギャグとして笑うところだが、実は『映画を早送りで観る人たち』の執筆時にヒアリングした倍速視聴者たちも、ほぼ同じことを言っていた。そう、2022年においては、1985年の『こち亀』のギャグがギャグとして成立しない。ある種の人たちにとってはきわめて普通のことだからだ。

流行りを押さえなければサバイブできない

麻里男はまた、こんなことを言う。

「歌番組など、どのアイドルが出演したかみれば十分だから、CMと歌をぬけば一時間番組が5分でみられるよ」
「テレビを楽しんでみるわけないでしょう。学校での会話についていくためにだけみてるんだよ!」

ここでの両津は呆れ顔だが、筆者としてはこのセリフにもデジャブがあった。セリフのないシーンや退屈なシーンを次々スキップしたり、ドラマを最後まで観るのが面倒なので結末だけネタバレサイトで読んで満足したり……という若者たちにその理由を聞いた際、麻里男と同じような答えが返ってきたからだ。

「あらすじと結末さえわかれば、友達との話題についていけますから。無駄なシーンは観てもしょうがない」