そもそも「マスターズ」という名でもなく、ギャラリーもほぼいなかった⁉︎ 伝説のゴルファーによる伝説の祭典はこう始まった_a
マスターズの創設者であるボビー・ジョーンズ(1902〜1971年)/Getty Images

「気の合う仲間と楽しみたい」が原点

マスターズが特別なのは、いくつか理由があると思うんだけど、その成り立ち、歴史がまずは大きいでしょうね。

かつて、とてつもなくすごいゴルファーがいました。1930年、1年で当時のゴルフの4大大会(全米オープン、全米アマ、全英オープン、全英アマ)を全部優勝した若者、ボビー・ジョーンズです。彼はまさに文武両道。弁護士の資格も持っているし、ゴルフはもちろんすごくうまい。

この時代は1929年から始まった世界恐慌の真っただ中でしたが、アマチュアのまま4大メジャーを制覇したジョーンズの偉業は、ニューヨークで大パレードを催すくらい、アメリカ中に勇気と熱狂を与えました。

ストイックなゴルフスタイルと圧倒的な強さでアメリカのヒーローとなったジョーンズですが、当時28歳の彼は、グランドスラム達成を機に競技ゴルフから引退してしまうんです。

ジョージア州アトランタ生まれのジョーンズは引退後、友人たちとプライベートクラブを作るべく、オーガスタ(ジョージア州)まで候補地を探しに行きました。そして、見つけたのが果樹園だったのですが、その果樹園こそ、現在のオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ(GC)というマスターズ開催地のゴルフ場の礎なのです。このオーガスタ・ナショナルGCは1933年に開場し、翌1934年にここで記念すべき第1回マスターズトーナメントが始まりました。

実はジョーンズは「引退したら何をするつもり?」と聞かれたときに、英国のある詩の一節に自分の気持ちを代弁させているんですね。
“もし僕が金持ちになったら、あるいは年老いたなら、僕は草葺き屋根の小さな家を建てたい”というような文章で始まる詩なんですが、それは要するに競技生活を終えて、仲のいい友達みんなと酒でも飲んで遊びたいね、それはなんて幸せなんだろう、というような内容なんです。

そういう考え方があって、本当に気の合った仲間が集まって、何かゴルフトーナメントみたいなことを始めようと。これがマスターズの原型だったわけです。

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マスターズの原型は「国際招待試合」として1934年に始まった/Getty Images