第12作『戦慄の楽譜(フルスコア)』は〝調性感〟を揺るがす革命的アレンジ
前編では第1作から第11作まで取り上げたが、後編では第12作以降のメインテーマのアレンジ変遷を見てゆこう。
まず最初に取り上げる第12作『戦慄の楽譜(フルスコア)』はかなりの〝問題作〟だ。音楽をテーマにした作品ゆえに、メインテーマのアレンジにも期待が高まるが、ふたを開けてみるとやっぱりすごかった。破っちゃったんですよ、前例を!
久々にプレ・イントロなしで始まる本作。イントロは定番の下降パターンと思いきや、聴いていてかすかな違和感を抱くだろう。下がってゆくベースラインのなかに、このキーのこのコード進行においてはふつう使われない音(レ♮)が入っているのだ。これを伏線として、中盤でとんでもない事態が生じる。
1コーラス目が終わったあとのこれまでとまったく異なる間奏、それに続く手数の多いアドリブも素晴らしいが、決定的なポイントはその先。ふたたびBメロにつながる直前で、心地よいアドリブラインに任せていた身が、不意に引き締まるような感じがしないだろうか?
これは、いつもどおりのコード(ここではC)に戻る直前に、G7という、本来このキーにおいてはよそ者となるコード(借用和音)を使っていることから得られる効果。要するに、一瞬だけ転調しているようなもの。こんなこと、今までにはなかった!
前編で触れた〝調性感〟が初めて大きく揺るがされたのはこの瞬間だ。「これ、やっちゃってもいいの? だったら、いろいろできるじゃん!」という感じ。さあ、というわけでここからが傑作の森!