破天荒すぎた、横山やすし
――それで言うと、故・横山やすしさんとのエピソードも、宇宙人レベルでした(笑)。実際近くにいる人は大変そうだなって思うんですけど、師匠はそれもおもしろがっていらっしゃった。
あんな大変な人にね、よくくっついてあっちこっち行ってるなって言われたんですけど、僕は、人って1冊の本だと思ったんですよ。
――1冊の本?
このシーンの次はどうなるんだろう?ってね。あの人お金持ってなくて、いつも僕が7万円ぐらい持って駆けつけて、みんな払っていたんですよ。変なスターなんですよね。お金がないの。そこんとこが僕はおもしろくておもしろくて。だって月に2000万って言ってたんです、吉本からもらうのが。
――2000万!?
そう。しかも飲んでるとあっという間に喧嘩が始まる。あるときなんかタクシーに2人で乗ったら、カーラジオで土居まさるさんの番組が流れてたの。そしたらいきなりドーン!って後ろから、運転手さんのシート蹴飛ばして、「なんやこら! 後ろにな、横山やすしと木久蔵が乗っとるんや! こっちの会話のほうがおもろいに決まってるやないか! そんなラジオ消せ、この野郎!」って蹴飛ばしてるんですね。
ああまた始まっちゃったと思って。こういうときのために用意している3000円入れたポチ袋を運転手さんにこっそり渡して。
――火がつくと師匠でもどうにもできないわけですか?
いや、こっちは本を読んでいるつもりだから止めないし。「あら、始まっちゃった」「この次のページどうなるんだろう?」という感じ。銀座のクラブでもありましたね。当時、銀座にひとり7万円くらいの店があったんだけど、 そこのママが落語が好きで「木久ちゃんは1万円でいいわよ」っていうんで、よく行ってたんですよ。来なくなっちゃった人のボトル飲んだりしてね。(やすしさんを)そこに連れていった。
店で「蛍の光」が流れたら閉店の合図で、僕が「やすしさん、これ流れると出なくちゃいけない、行こうよ」っていうと「なんや! おもろいところで何を言うてんねん! まだおるわ!」…「だったらまた来ようよ」「外でお寿司か何か食べよう」なんて言って、なんとかエレベーターホールまで連れ出す。
でも同じ時間に他の店も蛍の光だから、エレベーターはみんな満員なの。乗れないのよ。ドアが開いて満員でというのが3回くらい続いたら……キレたの。
――ああ(笑)。
「こらー! おまえら80万か100万取っとるんか知らんがな、わしはな、月2000万や!2000万が乗れなくてな、80万100万がなんで乗れんねん!」って。始まっちゃった……。僕がもう、地面に手ついて「酔ってるんですみません」って謝って。
――なんて理不尽な……(笑)。
そうなんだけど、でも瞬間に「2000万円が乗れなくて、80万、100万がなんで乗っとるのや」って言うのがおもしろいでしょ。そんなセリフ、普通思いつかないもん。「もっと詰めろ」とか「乗れるやろ、1人ぐらい」とかっていうのはあるけど、いきなりお金の話でしょ? そんな人いませんよ。だから、おもしろいじゃない。本としては。
――なぜお2人は気が合ったんでしょうか。
昔あの人の司会でね、大喜利番組があったんです。有楽町の読売ホール、あそこで収録していたんですけど。休憩時間にやすしさんが、ビルの上から駅のほうを見ながら寂しそうにしてたから、「ご機嫌いかがです? どうです、収録は?」って話しかけたら、「おもろないなー」と。「わしはな、東京に友達おらんのや。だからな、こうやってると、おもろない。大阪帰りたいわ」って言ってきたから、「じゃあ、私でよかったら」って名刺の交換しちゃったのが間違い。
――そこが本の始まりだった(笑)。
そう(笑)。