推認での死刑判決で業界は一変!?
ヤクザにとっての今年の重大ニュースを聞くために某指定暴力団の幹部K氏を訪ねた。「何だろう。何かあるかな」と言って、K氏は腕を組んでしばし考え込む。パッと思いつかないほど暴力団業界が穏やかだったかといえばそうでもない。
「業界を揺るがすほどの大事件はなかったが、引きずっているのは工藤会の死刑判決だ」(K氏)
北九州市を拠点とする工藤会の総裁、野村悟被告に福岡地裁で死刑判決が言い渡されたのは、2021年8月24日だ。工藤会は平成10年から26年にかけて、北九州市で漁業の元組合長を射殺するなど、4人の一般人を死傷させる4つの事件を起こした特定危険指定暴力団だ。
「特定危険指定暴力団」は2012年に暴対法(暴力団対策法)が改正された際、市民や企業を危険にさらす暴力団を取り締まる制度として新設された。現在、これに指定されている暴力団は工藤会のみ。2012年に指定されて以後、福岡県公安委員会により毎年指定が延長され、今年12月に11回目の延長が決められた。
2021年8月、福岡地裁で死刑判決が言い渡されると、野村被告は裁判長に向かって「公正な判断をお願いしたけど、全然、公正じゃないね」「アンタ、生涯このことを後悔するぞ!」と威嚇。裁判の行方を見守っていた各ネットニュースでこの発言が見出しとなって溢れた。
この死刑判決に業界には衝撃が走ったと聞く。無期懲役を言い渡されたナンバー2の田上不美夫被告も足立勉裁判長に向かって、「ひどいなぁ、アンタ。足立さん!」と威圧ともとれる発言をした。2人が事件に関わったという直接的な証拠はなく、全面的に無罪を主張していたのだ。
ところが2023年9月27日、控訴審第2回公判で田上被告は主張を一転させた。起訴された4つの事件のうち2つについて「独断で指示した」と関与を認めたのだ。これは、自ら罪を認めることで、親分である野村被告の死刑判決を食い止めようとしたとみられている。「野村被告の指示はない」と強調したというが、検察も引き下がらない。判決が言い渡されるのは2024年3月12日になる。
この判決が業界に与える影響は大きいとK氏は解説する。
「工藤会は俺たちから見ても危ない組だ。現役組員が一般人を狙うなどあってはならない。だが直接的な証拠もなく、推認で共謀したと死刑判決が出た。この判決がそのまま通れば、業界は一変する」
過去には敵対する組を襲撃し、実行犯として身代わりを自首させることもあるといわれた暴力団組織。警察も襲撃が下っ端の組員の独断とするには無理があるが、「暴力団から情報を取るためには警察も目をつぶり、互いに落としどころを探る。そういう時代もあった」とK氏。
しかし、今回の判決が通れば、仮に特殊詐欺に組員が関わっていたとしても組長は使用者責任を問われ、損害賠償を請求されるどころではすまなくなるのだ。