多様性が認められるようになり“当たり前”に変化
欧米で「childfree」の選択が浸透してきた要因には、やはり価値観の多様性が認められ始めた影響が大きいだろうとのこと。
「女性の社会進出が進んで、結婚後も出産や育児にとらわれずに自由に生きたい、働きたいと考える女性が増え、“子どもを持つことの尊さ”こそが至上だというような社会的観念が薄れてきたのでしょう。
イスラエルの社会学者オルナ・ドーナトさんの著書『母親になって後悔してる(Regretting Motherhood)』が、世界約20か国で出版され、欧州でも話題を呼んだように、結婚して子どもを作ることが幸せだという考え方が決して“当たり前”ではなく、子を持たなくても幸せになれるという価値観を持つ人が増えてきたようです。
そんななか、かつてはあまり公言できなかった子どもを持たないという選択について、社会でも少しずつ理解が進むようになったのだと考えられます」
日本よりも欧米圏のほうがさまざまな価値観が認められやすい土壌があったため、「childfree」も先行して浸透していったのだろう。
また、欧米で「childfree」が広まっていったのは、男性側の事情も関係しているようだという。
「男女の育児参加にいまだ開きがあることも、『childfree』が広まっていった一つの要因だと言われます。日本の男性は、海外に比べて極端に育児に参加していないという印象があるかもしれませんが、実は欧米でも男女の育児時間には、いまも一定の差異があります。
たとえばスウェーデンでは、国民の専業主婦割合は2%程度で、ほとんどが共働き世帯。比較的男性の育児参加が進んでいるとも言われています。
それでも、2018年の『男女共同参画白書』を見ると、男性(6歳未満の子をもつ夫)の育児時間(約1時間)は女性のそれ(約2時間)の半分程度に留まり、一部の女性からは、仕事と育児の両立に悩む声も挙がっていると聞きます。
近年は出生率も低下傾向で、2022年には過去最低レベルを記録したとのこと。移民政策の影響などもあるでしょうが、一部では両立の難しさから『childfree』の選択をする人たちが増えているのかもしれません」
日本は欧米に比べてジェンダーレスの浸透がかなり遅れており、逆に欧米では男女差別、男女格差があまりないといったイメージを持つ人もいるだろう。
だが意外にも、スウェーデンだけでなく欧米のほとんどの国で、男性の育児時間は女性の半分程度しかなく、この辺りも『childfree』の増加に影響しているかもしれない。
「また、日本だけでなく米国や欧州などでも、男女ともに経済的に余裕がない層が増え、学卒後も親と同居する“パラサイトシングル”の割合が近年増えてきているそうです。
とくに米国では、かつては大学生になったら独り立ちするという文化が根強かったにもかかわらず、コロナ後は若年層(18~29歳)の52%が親と同居している、と言われます。
おそらく、彼らの多くは経済的な理由から、無理に子どもを持たなくてもいいのではないかと考え始めているのでしょう」
日本でも格差が広がってきているが、欧米のほうが高収入層と低収入層の差が激しいため、経済的に余裕のない男女の間で「childfree」思想が増加しているのではないか、と考えられる。