『1985』の歌詞に織り込まれていた叫び
1985年という年は、「いじめの時代」の幕開けである。
全国の小・中学校で「いじめ」が横行しているというニュースが何度も取り上げられ、「いじめ自殺元年」とも言われた。
そして8月12日には世界最大の航空機墜落事故が起きている。日航ジャンボ機に乗っていた540人の命が奪われ、その中には日本でただ一人、全米チャート1位に輝いた『SUKIYAKI』を歌った坂本九が含まれていた。
日本という国が「帳簿上」だけの金持ちという奇妙な状況に放り込まれて、「経済至上主義の時代」が始まったのも1985年からだ。
ニューヨークのプラザホテルで行われた、日・米・英・仏・西独による先進5カ国蔵相・中央銀行総裁会議で、ドル高是正のため各国が為替相場に協調介入することで合意した。アメリカの貿易赤字と日本・西独の貿易黒字による国際収支の不均衡を、円高ドル安を容認することで是正しようとするのが目的だった。
その結果、物を消費することが日本政府によって奨励され、知性を欠落させた「大衆の時代」が始まっていく。それが1990年代前半のバブル崩壊にいたるまで、土地本位制とともに突き進んでいったのだ。
![「サンタクロースのおじいさんの命が危ない」と叫んだザ・ブルーハーツ。彼らが封印した幻のナンバー『1985』に込められた“目には見えてこない恐怖や危機”とはなんだったのか_3](https://shuon.ismcdn.jp/mwimgs/0/6/744mw/img_06d0f06381eba5426729a17f7580cb951369942.jpg)
1980年12月1日発売のアルバム『SURF&SNOW』で、松任谷由実は『恋人がサンタクロース』を発表している。それは大ヒットした映画『私をスキーに連れてって』(1987年)の挿入歌に使われたこともあって広く浸透し、山下達郎の『クリスマス・イブ』と並ぶ国産クリスマスソングの定番曲になっていく。
それから5年後。ザ・ブルーハーツは「サンタクロースのおじいさんの命が危ない」と叫んだ。
『1985』の歌詞に織り込まれていたのは、目には見えてこない恐怖や危機に対する警鐘だった。そしてその叫びを、「1985年だけの曲」だとして自ら封印した。
『1985』の最後に甲本ヒロトは、ブルーハーツ元年が日本のロック元年だという宣誓を述べている。
『1985』は、それから32年の歳月を経た2017年12月に『THE BLUE HEARTS アナログEP17枚組BOX』として、当時と同じソノシートによって再現された。
![2017年に発売された『THE BLUE HEARTS アナログEP17枚組BOX』(徳間ジャパン)。メルダック時代16曲、ワーナーミュージック時代22曲の音源がEP17枚組で(EP16枚+ソノシート1枚)のBOXでリリースされた](https://shuon.ismcdn.jp/mwimgs/2/c/500mw/img_2cb52d4205753249c2fac7f23ad92564134963.jpg)
文/佐藤剛 編集/TAP the POP