早大ラグビー部で“下剋上”がしばしば起こる理由
――大学卒業後、奇しくもおふたりはともにテレビマンとして活躍されるわけですが、大学ラグビーでの経験は、仕事にどのように活きていると思われますか?
福澤克雄氏(以下、福澤) 長年テレビの仕事に携わってきましたが、ラグビーをやってよかったと思えたのは、50歳手前になってからです。テレビ業界、芸能界というと華やかに思われるかもしれませんが、本当に大変なことがたくさんあります。でも毎日、合宿所で寝起きして、厳しい練習を繰り返していた大学での4年間に比べたら全然、楽だなと。年齢を経てから「今もテレビ業界で働いていられるのはラグビーのおかげかも」と思うようになりました。
佐々木卓氏(以下、佐々木) ぼくはとくに経営者になってから、ラグビー部での経験が活きていると実感するようになりました。昔の日本はワンマンな経営者がけっこう多くて、考えることは自分が社長の間にいかに成果を残すかということばかり。それで結果が出ると天才経営者ともてはやされるんだけど、自分が退いたあとの組織について考える人が少なかったように思います。
それに比べて現代の経営者にはサステナブルな組織運営が求められるんですが、これって実は大学時代に口を酸っぱくして言われていたことなんです。
早稲田では、上級生になると自分のスキルや戦術に関するノウハウを、同じポジションの後輩に伝える伝統がある。ポジション練習という時間が設けられていて、4年生が同じポジションの下級生に教えるんです。春から教えはじめると、秋頃には下級生が先輩の技術を自分のモノにしはじめるんですが、監督は若くて活きのいい選手を使いたがるから、ここで下剋上というか、下級生が試合で使われるようになって。
福澤 4年生にしてみれば、自分が教えたことによって試合に出られなくなるわけですね。
佐々木 そうです。でも早稲田のラグビー部ではそれをよしとする部風があった。ぼくらの時代は、高校ラグビーでならした有名選手が入部するケースはほとんどなかったから、技術や戦術を下の世代に伝えていかなければ、強さを維持できなかったというのもあります。
なので学生時代から、自分のプレーや自分たちのチームだけではなく、下の世代やラグビー部の将来についても考える習慣がついていた。当時の経験は今にも活きていると思いますね。