目次
NOVEL MISSION:1
NOVEL MISSION:2
NOVEL MISSION:3
NOVEL MISSION:4
SHORT NOVEL
NOVEL MISSION:1
イーデン校1泊2日の自然教室。ロイドの心の声が聞こえたアーニャは、ダミアンとの「キャンプで仲良し大作戦」を計画する!!ダミアンと同じ班になるが、言い争いが絶えず計画が暗礁に乗り上げていたところ…何かを勘違いしているベッキーのおかげで、ダミアンとアーニャ2人は水くみ係に。果たして計画の行方は…?
NOVEL MISSION:2
ある日の休日、大好きな姉・ヨルの代わりにアーニャの面倒をみることになったユーリ。気乗りしないままアーニャを職業体験施設へ連れて行くが、警察署ブースの取り調べ体験には保護者同伴の決まりがあった。しぶしぶユーリも制服に着替えるが…。
NOVEL MISSION:3
病院で診療を受けたフランキーは、帰り道に天使のような歌声を持つ盲目の少女・アレッサと出会った。時間が許す限り、アレッサに会いに行き、親睦を深めて行くフランキーだったが、ある日彼女が目の手術を受けると告げられる。目が見えるようになったら会いに行くと約束するが、彼女は名家のお嬢様で…?
NOVEL MISSION:4
フォージャー一家が公園で仲睦まじい姿をアピールしていた時、ある青年に絵のモデルになってくれないかとお願いされる。引き受けたものの、彼は超有名画家だった!!自分の描かれた絵が美術館に飾られると、暗殺任務への支障がでると恐れたヨルは、顔を描かれないようにと奇行を繰り返す。その真意を当然知る由もないロイドだったが…。
SHORT NOVEL
東国の首都バーリントのレストラン。婚活に失敗したウェイトレス・リリーと同僚のローズが結婚について話していた。不幸そうな家族連れが多い中、誰もが憧れる理想の家族・フォージャー家の話題に。絵に描いたように幸せな家庭を想像すると、婚活に意欲が出てくるリリー。しかし、彼女たちは彼らの本当の姿を知らない。
NOVEL MISSION:1 エピソードの試し読み
「自然教室ですか?」
淹れたてのココアをテーブルの上に置きながら、黒目がちの両目を瞬かせるヨルに、アーニャはココアを引き寄せ、こくりと肯いてみせた。
「こんどのきんよー くらすでやまにいく」
学校でもらってきた自然教室のしおりをわたす。
「フフ、うれしそうですね」
「アーニャ おとまりはじめて」
「え?」
最初はニコニコしていたヨルだったが、お泊まりと聞くと、驚いた顔になった。
「泊まりがけなんですか?」「うぃ」
急に険しい顔になった彼女のその胸中——まさに声なき声が、アーニャの脳に直接、伝わってくる。
少女アーニャ・フォージャーは、とある組織によって作られた被験体〝007〟。至近距離にいる人間の心を読むことができる超能力者であった。
『アーニャさんはまだ六歳ですし、初めてのお泊まりが山ごもりというのは、ちょっとハードルが高すぎる気がします……獲物の獲り方や捌き方を教えておいた方がいいですね。もしもの時のために、クマの撃退方法も……』
心の声と共に届いたヨルの心の中のイメージ——巨大なクマの口に手をつっこんで舌を引っ張ったり、ナイフで鹿を仕留め、解体するヨルと、それを横で見学するトマト祭りに参加したかのような自分の姿にぎょっとしたアーニャは、人知れず冷や汗を流した。
(ははのきゃんぷ だいぶ ちがう)
アーニャが“はは”と呼ぶ——ヨル・フォージャーは、ここ東国の首都バーリントの市役所で働くおっとりとした美人だが、実は〈いばら姫〉の暗号名を持つ凄腕の殺し屋なので、想像が一々物騒なのが玉に瑕だ。
もちろん、殺し屋なだけあって死ぬほど強い。
「高機能のサバイバルナイフは必需品ですね……それに、獣捕獲用の太いロープも……縛り方も伝授しておいた方がいいですね」
あと、トラップも……と別人のように低い声でボソボソとつぶやくヨルに、
「自然教室といっても、さすがに自分で獣を狩るようなことはないと思いますよ?」
アーニャの左どなりの席で妻の淹れてくれたコーヒーを飲んでいた“ちち”——ロイド・フォージャーがやわらかく告げる。
「失礼、ヨルさん。しおり、見せてもらえますか?」「あ、はい」
バーリント総合病院の精神科に勤めるロイドは、相手の心を落ち着かせるよう常に穏やかにしゃべる……が、それもまた仮の姿で、その正体は東国と冷戦状態にある隣国・西国から潜入している敏腕スパイだ。
暗号名は〈黄昏(たそがれ)〉。
因みに、ロイドは妻が殺し屋だと知らず、ヨルも夫がスパイだとは知らない。
戸籍上、夫妻の一人娘ということになっているアーニャは、超能力者ゆえにそれぞれの正体を知っているが、夫妻は娘に人の心が読める能力があるなどとは思ってもいない。
尚、二人の結婚はまったくの偽装で、アーニャはどちらとも血が繫がっていないが、諸事情により、ヨルはアーニャをロイドと前妻の間の子供だと思っている。
一見、どこにでもあるようなフォージャー家は、ちょっとばかり複雑で、各々の秘密の上に仮初の平穏を保っている一家だった。