ハグされ、キスされても感情が湧かず…
その男性は同じ大学の研究生で、これまでも「友達の範囲内」として皆と一緒に話をしたり、彼の家に遊びに行ったりもした。その日も、いつものように友達として、その彼の家へ遊びに行った。日本では男性の家へ行ったら、何かあっても「OK」と解釈されやすいが、どうやら感覚が違うらしい。
その日、突然、彼がシェリーさんをハグし、キスをしてきた。そのキスは、次の段階に進む気配の感じられるキスだった。
「これまでずっと普通の友達だったから、ちょっと嫌だった。だから逃げたんです」
「気持ちよかった?」
「別に」
即答したあと、シェリーさんは小首を傾げて笑った。本当にそうだったのだろうか。私はシェリーさんが「実は──」と、本当のことを言い出しやすいように質問を続けてみた。
「もっとしたいと思った?」
「ないですね」
「欲情したとかは?」
「ない」
「その先には進まなかった?」
「そう」
短い問答が続いた。あまりにあっさりしていて、私は笑いをこらえられなくなった。つられてシェリーさんも笑い出した。裏なんかなかった。「ない」。たったのこれだけが事実だったのだ。
「友達だから、その人の悪いところもこれまで見すぎてきちゃってて、感情が湧かなかったです。キスのあと『ちょっと待って』と言ったら、『わかった……』って。そこから先はまた、今まで通りの友達」
途中であきらめる男性もあっさりした紳士だが、シェリーさんのほうもあっさりしすぎている。それだから、相手も前に進めなかったのではないだろうか──と、私は勝手に想像した。